Jackpot(compositions exclusively for Bass)
After making CPJ music something stable with the first 2 concepts, Junky Funk(tunes for keyboards) & Line Drive(tunes for guitar) , Akihiko ‘JOKER’ Matsui went on to distort the straight forward direction of CPJ by writing tunes for bass! It was a challenge to write the main theme for bass, occasionally making the slapping bass line or harmonics be the main theme of the tune! As a result, it really DID make sense and became a good incentive and made the whole CPJ world a versatile, diversified universe.
Line Driveとは、松井秋彦のCPJ の楽曲の中で、ベースによって書かれた、ベースの特徴を生かしたコンセプトです。
☆Jackpot (CPJ written for bass)
21.JP001.Jackpot (Sydney, NSW. Australia) video1 video2 video3
22.JP002.Fantail Forest (Manapouri, New Zealand) video1 video2
23.JP003. Jazz Tsunagi (Bohinj, Slovenia)video1 video2
24.JP004.Jazzka? (蛇塚, Japan) video1
25.JP005.Jakuzure (蛇崩, Japan)video1
26.JP006.JL723 (Kuala Lumpur, Malaysia) video1 video2
27.JP007.Endless Daylight (Lysefjord, Norway)
28.JP008.Funky Funk (London, U.K.) video
29.JP009.Groove K (Perth, WA. Australia) video1
30.JP010.Hip Jive (HelsinkiFinland)
Jackpotも、CPJ界でやや異色なJackpotというバンドの名前としても機能しました。ベースによる楽曲という、音楽的可能性の限られたコンセプトに敢えて挑戦しながらも、Hybrid Slip Kick、超速ユニゾンなどを特徴とした、無理にベースを意識しない斬新なアプローチや、逆に、で、ベースならではのハーモニックスやスラッピングをメインテーマにした楽曲なども次々に発表して行きました。
Jackpot / Jackpot
ベースの為に書かれた低音CPJのJackpot 第1弾 !
Jackpot / Jackpot CPJ-3001 ¥2,500(tax included)
CPJの中でも、ベースでテーマを弾くように創られた楽曲達。スラッピングあり、ピッキングハーモニックスあり、指弾きあり、 スリップキックあり、高速ユニゾンあり!低音CPJここに萌芽!
1.25.JP005. Jazz Tsunagi (ジャズ繋ぎ)
2.24.JP004. Fantail Forest (ファンテイルの森)
3.23.JP003.JL723(ジャル723便)
4.21.JP001. Jackpot(ジャックポット)
5.26.JP006. Jazuka? (ジャズか?蛇塚!)
6. 29.JP009.Groove K (Kのグルーヴ)
7. 24.JP004.Fantail Forest(Solo Section) (ファンテイルの森)
8. 22.JP002.Funky Funk (わけのわからないような、わけのわからないもの)
9. 28.JP008.Endless Daylight (白夜の北欧)
10. 27.JP007.Jakuzure (蛇崩)
11. 57.KS007.迷路とパズルの町
12.30.JP010. Hip Jive (ヒップジャイヴ)
All Compositions by Akihiko ‘JOKER’ Matsui (松井秋彦)
Akihiko ‘JOKER’ Matsui (松井秋彦) Bass
Ken Imamura (今村拳) Guitar
Yuka Iizuka (飯塚由加) Keyboards
Ryo Takai(高井亮)Drums
Tadashi Sugitani(杉谷忠志)Tap
http://www.vme.co.jp/vme_src/cart/cd_buy3.asp?ARTIST_NAME=Jackpot&TITLE=Jackpot&SHOP_ID=VME
http://www.amazon.co.jp/Jackpot/dp/B000XBPLEG/ref=sr_1_11?s=music&ie=UTF8&qid=1329232150&sr=1-11
Jackpotの曲想紹介
21. JP001.Jackpot Woolloomooloo, Australia
「お前、マックの相が出てるぞ〜」
バイト仲間の間での謎な会話を聞いても、おそらく外部では見当がつかないだろう。
シドニーで、免税品の配達のバイトをやっている頃、
朝に遅刻をしたら全員にマクドナルドの朝食を奢ると言うことになっていたのだ。
荷物の仕分けも配送もあり、
朝は早くから、夜も場合によっては夜中までで、
全部のシフトをとっている場合は、
夜中に仕分けが終わって、翌朝のシフトが2時間後だったりすると、
そのまま飲みに行って、家にも帰らずに出勤、と言うこともあるぐらいだった。
そんな中でさすがに若くても疲労は溜まってくる。
ちょっとでも顔色が悪いと、
他の連中が、相手の次の日の遅刻を促すようなこのキメ台詞を言うことがあった。
さて、その配達の日々は過酷ながら楽しい。
毎日、配達先を決めるのもアミダだ。
アミダで上位から順番に行きたい場所を選ぶ中で、
大体の配達先はシドニー中のあらゆるホテルだが、
一番人気のある配達先は、空港だ。
特に国際線なんかある日には人気殺到だ。
基準は、なるべく遠いこと!
遠ければ遠いほど、途中で若干サボってもいいし、
空港なんていうと、ちょっとしたロングドライヴで、
しまいにゃ途中にある「テンサン」とか言う絶品のラーメン屋で食べて寛いだりすらできるのだ!
そんな日々、何箇所かシドニーの中で引越しした後に、
南半球一の歓楽街と言われるKings Crossから目と鼻の先であるWoolloomoolooに、
そのバイト仲間のうちの5人と、かなり良いマンションをシェアして住む流れになった。
5人で割るだけに、家賃も馬鹿高くはないけど、プールまでついている物件だ。
しかも、このハードなバイトはかなり給料も良い上に、
土曜は1.5倍、日曜と残業は2倍、オーストラリアの祭日だと2.5倍に時給が膨れ上がるので、みんなお金には余裕があるぐらいだ。
この5人で住む部屋の中のリヴィングルームでは、
ちょっとサッカーもどきをしたり、
相撲を取ったり、
仕事でもさんざん会っているのにも関わらず、なかなかに仲良く過ごしていたし、
時には、そのうちの何人かで、
The Blue Mountainsまでドライブにも行って楽しく過ごした。
そんな中で、たまには一人で食べ物を買いにKings Crossに出ていた。
そう、自分のお気に入りのタイ料理屋で、あの何とも言えない絶品のグリーンカレーを食べたい時はね。
22. JP002. Funky Funk London, U.K.
アムステルダムからのバスでたどり着いたロンドンの街を適当に歩いていると、知らない男が話しかけてきた。
『ああ、そう言えば、まだ決まってないよ』
「じゃあ、おれと安宿をシェアしないか?更に安く上がるぜ。」
『なるほど、それは助かるね!』
と言うことで、簡単に取引が成立して、ひょんなことから全く知らないアメリカ人のノアと一晩一緒に寝ることになった。
ノアはすぐにそこそこ安そうな宿を見つけ、
二人でフロントに行き事情を話すと、
フロントのおじさんはもちろん大丈夫だとOKを出し、
「ノア君。君は由緒正しい名前だな!」と言った。
そして、階上の部屋に二人は行き、お互いのベッドを確保した。
さて、今日の宿は確保した上で、
馴染みのない街ロンドンに更にくりだし、歩き続けた。
しかし、Hyde Parkには不潔感のあるゴミが飛び交い、
Piccadilly Circus は何だかロックなサウンドに満ちていた。
そして、街外のれ高い橋を渡っている時に、
ある元気のなさそうな少女が話しかけたきた。
「これ、吸いますか?」と。
それは、明らかに何かしらの麻薬であった。
そんなものさえやっていなければ何の問題もない溌剌とした少女であっただろう娘に、
一体何があったのか?
この直前にアムステルダムのダムで、
麻薬のディーラーらしき黒人にカメラをスられたり、
バスがフェリーで海を越えてたどり着いたドーバーには、
自分のギターやベースを忘れてしまっていたままになっていて、
自分としては気が気でない旅路ではあったが、
この少女の様子を見た時に、
おれなんかはまだまだお気楽なヤツだと言う自覚をして宿に戻った。
宿では、おれが置いて行ったアメリカの新聞、USA Todayを読みながらご満悦の表情のノアが待っていて、
お互いの旅自慢をすることになる夜だった。
23.JP003. JL723 Kuala Lumpur, Malaysia
『このコーヒーのバブルどうにかならないの?』
もう相当おなじみになったKuala Lumpur のHotel Concord のレストラン、
The Melting Pot Cafeで、
泡立っていないコーヒーが欲しくなり、
ついついそんなことをウエイターに口走った。
マレーシアに演奏ツアーに来る度に大体泊まっているこのホテルだけに、
暇な時は大体ここで寛いでいたので、相当な時間をここで費やしていたことになる。
結局、勘違いしたウエイターは、
「ほら、ナイスなバブルのあるコーヒーがご用意できましたよ!」
と得意気に、おれの大嫌いな、泡立ったコーヒーを持ってくるのがオチだ!
幾度にも及んだマレーシアツアーでは、
基本的には自らのJunky Funkで演奏している曲を演奏した。
いろいろなプレイヤーを日本から連れてゆき、
マレーシアで活躍するイケイケのプレイヤーに楽曲を投げ込んで、
できる限りCPJのカラーを打ち出した。
連日連夜続くパワフルなライブの後は、
主催者がいろんなところに飲みに連れて行ってくれる。
そもそも演奏中から相当飲んではいるし、
最終ステージは大体夜中を過ぎていたが、、、、、。
それにしてもマレーシアは不思議な国で、
最後のステージがある夜中、もしくは明け方でも普通に新しいお客さんが入ってくるのだ。
一体彼らは昼間ちゃんと働いているのか心配になってくる。
そんなマレーシアツアーの何回目だったか、
ある一度のツアーを除いて、
いつも乗っているジャルのJAL723便の中で、
これから対峙するあの強烈でパワフルな荒くれ者と言っても過言でないプレイヤーたちのイメージで、
ガーっと曲を書いていた。
それがなぜだったのか、へ音記号の領域の過激なメロディ
自分の場合だったら、4つの演奏できる楽器の中ではベースでの演奏と言うことになるが、
自分でもベースで演奏できるようになるのかがわからない中で一曲の基本的な構成は飛行機の中で書き上げた!
結果的にはそれをすぐにマレーシアの連中に投げ出すのは間に合わなかったのが得策だったぐらいに、
かなりのややこしさの旋律が描き上げられた!
それを、このマレーシアツアーのほとんどの時に使われていたJALの723便にちなんで、
JL723と名付けることにした!
このマレーシアツアーでは、その都度いろんなプレイヤーを日本から連れて行って、
現地の兵と闘わせるわけではないが、
ある意味そんな心境だった。
プレイヤーだけでなく、
日本での常連のお客さん兼スタッフ的な娘や、
自分の生徒でもある娘も同行する時もあり、
半分は海外旅行めいた空気にもなる時もあった。
ある時、あまりに楽しかったツアーの最後に、
そういう日本からの生徒やお客さんなどとツアーの最後に、車に載せられて移動している時に、
後ろ向きの座席に揺られながら、思わず言った。
『ああ〜、もう前髪を引かれる思いだ!』(一同爆笑)
24.JP004. Fantail Forest Manapouri, New Zealand
「ちきしょう〜、なんでこんなにコントロールが効かないんだ!」
まさか、流れの激しい川を手漕ぎボートで渡るのがこれぐらいしんどいことになるとは予想だにしなかった!
Queentown のBumbles という格安の宿を拠点にして毎日、天気を見ながらTe Anau 、Mirror Lakeなどを訪れながら、
どうにか一度でも快晴のMilfordを見ようと様子を伺っていた日々のあるとき、
曇天の中の選択肢としてManapouri湖を巡ることにした。
なにしろこのNew Zealand のフィヨルドランドも、
Norwayのフィヨルドが連なる西海岸も、
屈指の降水量を誇る豪雨の地域で、
曇天率が異様に高いのだ。
曇天でも、降っていないだけマシだと思わなければならない。
Manapouriの町で、どうしたら湖に沿った森に入れるのか尋ねると、ボートを借りて川を越えるしかないと言われ、
ボートを借りることにした。
しかし、湖上をボートで優雅に滑るのとは、全く別次元であることは予想だにしなかった。
風もあり、流れも激しい川を横切るのに、
帰りのことを考えるとあまり下流に押し流されられない、という中でなるべく直角に川を横切るべく漕ぐには、
やや流れに抵抗して上流に向かうように漕がざるを得ない。
しかし、強い風と、激しい流れに押されて、
対岸についた頃には、
ヘトヘトになりながらもやや下流へ流されていた!
しかし、気を持ち直して、
対岸の森の中を歩くと、
Manapouriの町の時点でひと気が全くなかったので、
もちろん人間が最近来た気配すらなく、
たまにニュージーランドバトが樹木の上の方で音を立てるぐらいで、
森閑としていて、
自然の中に身体が溶け込み、
一体化し、
喧騒の中にいる時には気がつかないような、
自分がこの星の一部である、
ということを鮮烈に突きつけられる時間が流れた。
マナプーリ湖の湖畔に出るポイントを目指して、
深い森の中をそのまま歩き続けると、
ふいに後ろから黒い小さな鳥が飛んで追い越して行った!
そして、自分の前に来ては、
後ろの羽をクルリと団扇のように見事に拡げて魅せる。
なんとも美しいこの鳥はファンテイルだ!
たまたまそこで停まったんだろうか?
そのまま追い抜いて進んでみると、
ファンテイルはたま後ろから飛び、抜いてきて、
また前に来ては扇子を拡げてショーを魅せてくれる!
まるで、湖はこっちだよ、と道しるべになってくれているように。
これが偶然ではないというのがはっきりするぐらいに、
ファンテイルは同じことを繰り返してくれて、
とうとう、少しではあるが湖に向かってやや浜辺が
拡がっているところに着き、そこから、とうとう、
マナプーリ湖の全貌を掴むことができた!
なんともひっそりとして、
荘厳で、
人間の営みからは完全に隔絶された
美しい自然が拡がっているのを、
ファンテイルは自慢げにおれに見せたかったんじゃないか?
25. JP005. Jazz Tsunagi Bohinjsko Jezero, Slovenia
「ヴィニェッタを貼っていないね!」
スロヴェニアの高速に乗ったとたん、
パトカーのような車にストップをかけられた!
『何なんだいそのヴィニェッタってのは?』
「スロヴェニアでは高速料金を最初のガソリンスタンドで払ってヴィニェッタを買って、それを貼って高速道路を通行することになってるんだ、この辺の国は国ごとにやり方が違うから気をつけたまえ」
『でも、おれはまだガソリンスタンドは通ってないぜ!』
「いや、通ってる筈だ。オーストリアから入ってすぐのところにある」
『いや、おれは下道も下道、山奥のルートで国境を越えたんだよ。イタリアのLago del Predilって湖をかすめて峠越えしてきたんだよ』
「いや、そんな筈はない」
と、その、国から委託されてこの取り締まりをやっている2人組の一人が頑なに言った。そして、もう一人は、
「まあ、外国人の場合はこの罰金も半額になるから納めてください」
と言った。
まあ、最初からノルマがあって、外国人はカモなんだろう。
どうせ彼らにあの山道のルートなんて言ってもわかるまい。。。。。
そんなこんなで最初からトラブルあって入ったスロヴェニアだったが、
湖上に教会のある中島もあって、
湖の全貌を見渡せる絶壁の上に古城を擁する、
世界的にも知られている
スロベニアのブレッド湖に着いた頃には、
ちょうど紅葉が真っ盛りであった。
歩いても登れる山の上に聳え立つブレッド城に登り、
そこから見渡すブレッド湖と、
その中島となるブレッド島に佇むマリア教会が見渡せて、
自然美と人工美の調和する風景の中でも、
究極の絶景だ。
紅葉の中を西に進むと、
日本で言うと九頭竜湖のように、
山の中に忘れさられそうな
美しい湖、ボーヒン湖がある。
ボーヒン湖に着くと、やや濃い霧がかかり、
周辺が見渡しにくいことから、
そこから出ているロープウェイで全容を捉えることにした。
ロープウェイが登るにつれ、
見えているボーヒン湖の形状が変化して見え、
あらゆる不思議な時空が拡がった。
手前に見える山のピークが遮る部分が、
見る位置によって景色の雰囲気を変化させ続けるからだ。
運良く全貌を見渡すまでは霧の到達が遅れてくれたが、
最上地点に着いた頃には、全体は霧に覆われていた。
そこからまた湖畔に降りて、
Slap Savicaを目指して山道を歩くことにした。
紅葉した落ち葉が足元をカラフルに飾る山道を
湖畔からやや山中に入り込むように歩くと、
このスロヴェニアという馴染みのない土地でも、
かなりその胎内へと踏み入ってその空気を掴み取っている感じになってきている感覚を覚える。
山道が細くなってきて、ややトレイルめいてきてから程なく、
斜めに鋭く切り込むデザイン性の秀逸な滝の中の滝、
Slap Savicaが忽然と姿を現した!
26.JP006. Jazuka? 蛇塚, Japan
‘ What the heck is he doing? It’s hilarious! I love it a lot!’
丹波山村の民宿の宴会場で、
地元の人たちの芸が始まっていたなかで、
脇でどじょうすくいをやっていたおじさんにツボって、
アメリカ人のLが興奮して叫んだ!
その芸が終わるや否や、
Lはその泥鰌すくいのおじさんに駆け寄り、手を取り、
一緒に踊り出した!
山奥の宴会場で突然知らない外人に手を取られたおじさんも、
かなり驚き、と惑いながらも踊っていた。
珍道中は塩山から大菩薩峠に始まり、
緩やかな稜線を辿っては丹波山村に降り立った時に縦走の中日に宿泊したところだった。
ある冬、それは快晴の日が続いた奇跡的な冬だった。
冬に雨というのものは皆無なのが当たり前と思わせるほどに、
9月から1月ぐらいまで、雨が降った印象はない。
しかも、空気が澄んでいて視界が良好な日々。
毎週のように狂ったように登山をしていた。
一旦やや音楽を離れて、
本厚木の英会話学校であるジオスに勤めていた頃だった。
ネイティヴの女性講師2人とかなり頻繁に、
近くにあった丹沢山塊を深め、走破して、
もはや行くところがなくなった頃、
やや離れているが、
大菩薩峠から鹿倉山までを縦走するコースを3人でゆくことになった。
ネイティヴの女性講師たちの、
一人は爆裂系アメリカ人で一番仲の良いL、
もう一人はもの静かに明るいカナダ人Aだった。
この頃の登山スタイルはハイパー登山で、
まずは行けるところまで爆走して、
野原に飛び込み、
ハイジのように原っぱでゴロゴロと転がるというめちゃめちゃなものだった。
丹波山村の宴会場での興奮冷めやらぬまま、
鹿倉山へと三人は向かい、
山道でもお互いをくすぐっては写真を撮るというクレイジーなスタイルで、
珍道中は続いた。
ピークを過ぎての下山中に、
忽然と現れたのは、
山の中腹とはとても思えないような
巨大な白亜の仏舎利塔だった!
あまりのことに口をあんぐりしながら3人は仏舎利塔を眺めていると、
そこの管理もしくは掃除をしているおばさんがいることに気づいた。
気がつけば、3人でそこから更に麓まで下山する頃、
ちょうど仏舎利塔のおばさんと同じタイミングになったが、
山道でおばさんが何度も転びそうになる。
それをLとAが度々手を出して救ってあげていたが、
そのうち、おばさんを救うことで、
LやA自身が何度も転んで犠牲になり、
爆笑しながらの下山になった。
麓の駅に着くと、
クレイジーな気持ちのLの提案で、
3人で証明書用の写真の自動撮影機に飛び込み、
顔を寄せ合ってのスリーショット!
しかも、数秒置きに3回のショットの度に、
パーっと動いてそれぞれ違う位置に顔を出しての濃厚な3ショットを3枚!
ハイパーな登山はなんともファンキーなことになったものだ。
27.JP007. Jakuzure 蛇崩, Japan
深沢の呑川沿いにいると、
かなりの回数その呑川緑道を歩くようになった。
あるとき、当然ながら湧いてくる疑問として、
呑川は、川、というけど全く水は流れていないただの散歩道だが、
元々は川だったということなのか?
それとも暗渠化されているのか?
ということで、東京のあらゆる暗渠化されている川に興味を持つようになった。
呑川もそのうちの一つで、
桜新町に端を発して、
深沢の駒沢通りで一旦暗渠区間になり、
当分の間は地下で脈々とその流れを保ち、
なんと緑ヶ丘で再び開渠区間が始まり再び日の目を見る!
更には流れは下流ではどんどん幅を広げながら、
最後には羽田空港の敷地にぶち当たって海に流れ出しているということがわかった!
あるとき、近所の等々力渓谷を歩いて、
都内にこれだけ深みのある自然の風景が残されていることに驚きながらも、
そういえば、この矢沢川は基本開渠されているけど、
古くは、九品仏川と繋がっていたらしいし、
その九品仏川は現在は全て暗渠になっている。
そして繋がったのが、
『蛇崩』だ!
昔から気に入っていた謎の五叉路に蛇崩の名前がかざされていて、自分にとってはワクワクする場所だが、
よく聞く「蛇崩川」というのも姿を見たことがない。
『蛇崩』は地名も消え失せ、
「蛇崩川」は暗渠化されて、人々の視界から消えたのだ。
28.JP008. Endless Daylight Lysefjord, Norway
『Are there any busses running to Trondheim?』
スウェーデンから峠を越えてノルウェーへ向かう為に、
山の中で列車を乗り継ぐので、ストリエンに来ていたが、どうやらなかなか次の列車がないようだったので、
駅員にバスがないのか尋ねたのだ。
するとバスが30分後には着くということだった。
「どこからきたの?」
待合室でバスを待っていると、大きなリュックサックを持った女子大生風の旅行者が訪ねてきた。
『日本の東京です』
「アメリカ英語を喋っていたからアメリカからかと思った」
『まあ、今は留学先のボストンからだけど』
「私はミネソタのミネアポリスの大学生で、スウェーデンで3ヶ月言語を勉強してきて、今その締め括りに旅してるんです」
トロンハイムへのバスは、ノルウェーの急峻な山脈をかき分け、
ダイナミックに山々を見下ろし巡ってゆく。
これは確実にノルウェーの光景だ!
やがて分水嶺を越えた後の川に出会し、その川が海に到達するところの最果ての地がトロンハイムなのだろう。
そのうち川が開けてきて海に突入してゆくのが見える。
しかし海にでたようでも、バスは当分の間フィヨルドの複雑な地形を這い続ける。
すると、前方にとうとう街らしきものが見えてきた。
「素晴らしい景色だったわね!」
バスを降りて、ミネソタの女子大生のHが声を上げて言い、
「ここからどうするの?」と問いかけてくる。
『どこか泊まるところ知ってる?』
「私が調べてきたのはヴァンドラムだけど。ユースホステルみたいなものだけど、そうじゃないとすごく高いからね。
ここからバスで行けるみたいだけど、行ってみる?」
『行ってみるかな』
「あ、ちょっとその前に飲み物を買いたいんだけど。」
鉄道の駅の構内にあるセルフサービスのレストランに入った。
自分も付き合って少し食べ物を買った。
セルフサービスながら綺麗なレストランで、
少し雑談してからバス停へ向かった。
Hは華奢な体でずっと大きなリュックを背負っている。
『それ、もとうか?』
「ん、いいのいいの。あ、あれバスじゃないの?」
走ってバスを捕まえて乗り込んだ。
Hは不思議と流暢なノルウェー語で行き先などを聞いていた。
『え〜〜何でノルウェー語まで話せるの?』
「ノルウェー語は、書けば違うけど、話す分にはスウェーデン語と大体一緒だから」
バスを降りてヴァンドラムとやらを見つけてチェックインした。
「じゃあ、部屋に荷物を置いてきてからこのロビーで会いましょう」
とハリーは女子部屋に入っていった。
結局男子部屋であらゆる国籍の人たちと話していたことでだいぶ遅れて出ていったらもうHはいなかったので、
一人で外へ出てぶらつくことにした。
もう外の店は早々と閉ざされていて、住宅街が続いており、坂を降り切ったところには緑の屋根の教会があった。
トロンハイムは常に緑の教会に見守られている。
深夜にやっと傾きかけた陽が緑の尖塔に掛かり、左右に裂かれていた。
ヴァンドラムに戻ると、ラウンジで多くの人が寛いでいたので、自分もそこで明日の計画を練っているとHが突然現れた。
「テレビを見てたんだけど、面白くなって、、、、外行ってたの?」
さっき会い損なったばかりだけど、全く笑顔を絶やさずに、
「知ってる?チェックインする時に明日の朝食の券も渡されたのよ。これなんだけど」と続けた。
『あれ〜なくしちゃったかなあ』
「私もなくしちゃったかもと思ったけど見つかったから、見つかるといいわね。それじゃあ、明日の朝食でね」
翌朝、ヴァンドラムの食堂へ行くと、窓側の席でHが手を振っているのが見えた。
「朝食券見つかったのね。でも、スウェーデンやノルウェーは、ハムやチーズのサンドウィッチにコーヒーってパターンばかりで飽きちゃうでしょう?」
『確かにそればっかり多いね〜』
丘の上にあるヴァンドラムの窓からは、トロンハイムの町と、教会の緑の尖塔が見渡せる。
『今日はどうするの?町を見に行くんでしょ?」
『町を昼頃まで歩いて見たら、昼のオスロ行きに乗るつもりだよ。スイスの友達の家に戻らないとならないから。』
結局、二人で町へ出ることになった。
天気は不安定で、小雨が降ったり止んだりしている。バスに乗って町に着いた。
トロンハイムには、緑の屋根の教会が多い。
この中でも一番大きい有名な大聖堂に辿り着き、中に入ってみる。
歴史を感じされる古めかしい内装、彫刻やステンドグラス、そして上方を見上げれば果てしなく突き抜けて最上部までの壁が見渡せる。アメリカのワシントン大伽藍の近代美と対照的な荘厳さが漂っている。
外は雨が激しくなってきた。
Hはいろいろな美術館や博物館を調べていたが、どうもこの天気では乗り気がしない。中心街のショッピングセンターをぶらつくことにした。
昼前には空腹になってきた。しかし、Hはまだ空腹ではない。
「じゃあここに入る?付き合うわよ。」
外側が全面ガラス張りのモダンなレストランがあった。窓側の席からは、通行人などの様子、大通りの賑わいが見える。
「あの人おかしいわねえ。」
Hはたまに滑稽な通行人をさして言う。
コーヒーとサンドウィッチと共に、会話のときは流れる。オスロ行きの列車の時間は迫っている。
「私が滞在していたスウェーデン人の家庭にしても何か変わっているのよ。私が子守をしていて、子供が私の腕に噛みついても何も言わないんだから!信じられないわ!三ヶ月そこで語学を勉強して、最後にスカンジナヴィアをこうやって旅して、あと4、5日したらアムステルダムからミネアポリスに飛ぼうと思って。」
『じゃあまだ少しはスカンジナヴィアでゆっくりできるんだね。おれはチューリッヒに向かわないと。』
この旅では、本当はノルウェーのLysefjordというフィヨルドのプルピットロックを目指したい気持ちでいっぱいだったが、
この年は時間が足りず、そしてその次の年はその麓の町、Stavangerまでは行ったものの、天気に恵まれず、
そのまた次の年、同じスタヴァンゲルにたどり着いた!
朝のフェリーの乗客はどうやら地元スタヴァンゲルの通勤客ばかりであるようだった。
素朴で型の古いそのフェリーは、
スタヴァンゲルの街から小さな湾に隔てられた対岸へ渡る短距離の船であるが、
その上には簡単な食堂や売店があり、
皆めいめいに、好きなものを食べたり、コーヒーを飲んだり、
勝手なことをしながら寛いでいる。
中には船の端から、
水上や、
遠くに見える山々を眺めている人もいる。
何とも和やかでのんびりした雰囲気だ!
対岸の船着場に着くと、あっと言う間に私は一人残され、地元の人たちはどこやらへ消えゆく。
そしてそこには二軒ほどの閉ざされた店があるだけであとは何もない。
これから山に登るにあたって、対岸に着いてから食糧を買おうと思っていたので、途方に暮れた。
「おい、君。どうしたんだい?どこへ行きたいんだい?」
それまで全然気がつかなかったが、突然そこに地元のおじさんが現れて言った。
『プルピットロックに登りたいんです』
「あ、そうか、山に登るのか。ああ、じゃあ俺が登山口まで行ってやるよ。」
そのおじさんは歩き方もフラフラしていて、
昼間なのにズボンの腹のところにウォッカのボトルを挟んでいて、
しかもボトルには120プルーフと書いてある。
それをたまにグビっと飲みながら歩き続ける。
『そういえば、ここから登山口までは一軒もお店はないんですか?
せめて飲み物だけでも買っておかないとと思うんですが、、、、、』
「ああ、そうだな。それなら、途中に一軒だけホテルがあるから、そこで買えるかも知れないぞ。」
大分経って、ちょっと道を逸れて木々の合間に入ったところに、確かにホテルはあった。
そこでは、瓶入りのコーラなら買うことはできた。
「けっ、とんでもねえ暴利だこんなの!買うな!」
『う〜ん、でもほんとに水も持ってないから買うしかないんだ。』
かなり歩き続けてから、車道は分岐点に達した。
「よーしここだ。ここを左に入ったら後はずっとまっすぐ行けば、登山口に着くぜ!
長いけど頑張れよ!」
『ありがとう!助かったよ!』
夏の暑い日であり、
強い日差しに照らされた木々や牧草地が美しい反面、
気がつけば常に、20匹ぐらいの蠅が身体じゅうにまとわりついて飛び交っている。
道は緩やかに登ってゆき、たまに山羊の群れが行手を阻む。
厳しい暑さとは裏腹に、変化に富んだ景観は予想以上に美しくなってゆく。
降水量の多いノルウェー西海岸でこれだけの快晴に巡り合ったことに感謝しないとならない。
なんせ去年はわざわざスタヴァンゲルまで来ていながら雨で諦めたのだ。
と、一年前の無念を想い出していると、とうとう車道から登山口に入るポイントに辿りついた!
普通なら車か何かでここまで来ての登山だろうが、ここまでで大分体力を消耗してしまっている。
ここからがウォーキングトレイルであり、山道となる。
しばらくすると、山容は岩に特徴づけられ、溶岩のような起伏の激しい景観に、
それでも植物が途絶えることなく色づけしてくれる。
ここのところ山を登っていなかったせいか、かなりの疲れを感じてきた。
喉も渇ききり、たった一本のコーラの瓶を空けたい衝動にかられるが、
自分の持っている唯一の水分をここで今空けてしまっては後があまりにも苦しい。
どうにかそれを温存したまま歩き続ける。
すると、たまに岩の向こうにチラチラとリセフィヨルドと思しき青い水が見えてくる。
それによって疲労感は消え去り、再び力が戻ってくる。そして、とうとうプルピットロックを捉えた!
『こんな解放感と爽快感に満ちた景観が他のどこにあるんだろう!』
プルピットという名の通り教壇のような形状のその巨大な岩はほぼ平面の拡がりをみせ、
突然直角に切れて垂直に600m直下のリセフィヨルドまで落ちている。
快晴の中、エメラルドに輝くリセフィヨルドのかなり遠くまで、
そしてリセフィヨルドの対岸の岩が、
まるで空から見たように見渡せる!
ここぞとばかり死ぬ思いで温存してきたたった一本の小さなコーラの瓶を開け、
あっという間に飲み干した!
それは長い道中猛暑の中、散々温められてきた生温いコーラであった筈だが、
冷蔵庫から出てきたものよりも、
氷でキリっと冷やされたものよりも、
全く比較にならないような、
至高の、世界一のコーラとなった!
29.JP009.Groove X Perth, Australia
「かなり飛ばしてたね。85kmでてたよ!」
『相当落としたんだがな〜』
「町中に入ると制限速度はガクっと落ちるんだから気をつけた方がいい。さあ、罰金は80ドルだ!」
『う〜む、痛いな。現金か?』
「おっと、ここで払っちゃいけない。この用紙とともに後で振り込むんだな。」
『おお、そのへんはちゃんとしてるな』
Perthから近い奇岩、Wavw Rockが気になって、Perthから車で飛ばしていた時だった。
大体、たまに通る小さな村や集落で制限速度が落ちるのをついつい忘れて飛ばしていると、
Corriginという町でこの一人の警官にとっつかまってしまったというわけだ。
最初にオーストラリアを放浪した時にPerthが妙に気に入っていた。
Darwinから入って、とにかくオーストラリアを8の字に駆け巡る旅で寄ったPerthの街は、
なんとも爽やかで明るかった。
Swan川沿いに黄色いサイクリング車で街を一周して、
清楚な住宅地から常に見える摩天楼がなんとも美しく、
落ち着きのある街だったのだ。
それから数年経って、
Perthの街に一週間ほど滞在する機会に恵まれた。
街自体も楽しみながらも、
ドライヴィング圏内にある奇岩群として、
北にはPinnacles、東にはWave Rockという二枚看板があることに気がつき、
これは奇岩好きとしては訪れずにはいられないと思ったのだ。
結局、この2つの奇岩は絶対に期間中に捉えるということにした!
北にあるThe Pinnaclesへ向かうと、
オーストラリアの大きさに愕然とした。
自分で運転すると、かなりの距離を爆走している印象があっても、
PerthからThe Pinnaclesなんていうのは地図上では、
オーストラリア全体からすれば、
端っこの方でちょっと動いたのか動いていないのか、というレベルの距離なのだ。
拡がる広大な平原や、並木道、そしてたまにある森を突き抜け、
時折現れる集落、
凡庸な風景でありながらも、
何かしらの飽きない要素がある地域をひたすら北へ飛ばした。
オーストラリアの南西部の海岸沿いのCervantesにあるPinnaclesは、
前代未聞の異空間を創出していた。
まるでアフリカやブラジルのセラードにあるアリ塚のような形状の岩が、
剥き出しの何もない砂漠に点在している!
その様子は、何か他の星にたどり着いた時はこんな感じなのか、とか、
異星人がこの地球にたどり着いて拵えた造形なのか、という、
不思議な気持ちで満たされるのだ。
そして、Cervatesへの旅に関しては、
帰りの道中の不思議な海沿いのあらゆる集落がなんとも味わい深い!
まずは、Sea Birdというお洒落な名前の町が海沿いにあり、自然と海の爽やかな調和を垣間見て、
その後、おそらく小さな漁村であるGuildertonにたどり着くと、
なんとも言えないサイズ感のこじんまりとした温度感を演出するのだ!
これはなんとも意外な副産物だった。
奇岩を求めてきた旅で得た、なんとも言えないほのかな雰囲気の風景であったのだ!
Perthからのもう一つの奇岩の旅、Wave Rockへは、もう少し距離感がある。
それで飛ばしていたことで、Corridinではスピード違反で捕まったり、
Kondininという小さい町の、文具店に寄って見たり、
Yorkという趣深い町の土産物屋にも寄ったものだ。
そして辿りついたWave Rockの奇岩はまた見たことがないようなものであった!
波を打った巨大な一枚岩が続き、その上を歩くこともできる。
まるでそれは巨大な生物のようでもあり、
もしくは宇宙の他の星からきた巨人による美術作品のようでもある!
そんな波打った巨大な奇岩がこのPerthの旅の大きな締めくくりをしてくれた!
30.JP010.Hip Jive Huopalahti, Finland
「ここに座ってもいいですか?誰か話し相手が欲しいと思って」
『どうぞ。僕も暇だから』
外はすでに真っ暗で、ほとんどの乗客は客車で眠りについている頃だった。
唯一、眠りたくない連中がいられる場所と言えば、
この食堂車ぐらいであった。
そのフィンランド人の女性のPは、故郷のピエクサマキに向かうところであった。
Pも次から次とビールをお代わりしていたが、
その日は、自分もいままでないほどにずっとビールを飲んでいた。
フィンランド人たちが食堂車であまりにも皆ビールをお代わりしているのを見て、
みんなとことん飲むべきなのか?と思ったのと、
まだお酒は飲み始めの頃だったので
どれぐらい飲むと酔っ払うものなのかを試してみていたのもあった。
そのうちにカウンターが閉ざされて、照明が切られても、
そのまま食堂車のテーブルで話し続けていると、
やがて夜中の2時ぐらいにピエクサマキに到着した。
自分はそのまま更に北上する予定だったが、
列車はここに45分も停車するので、
Pはこう提案した。
「45分もあるから、私の故郷がどんな町か、散歩してみない?
それに、飲んでばかりでお腹は空いているんでしょう?」
夏のフィンランド中部は、夜中にもなれば、涼しくなっているが、
ひんやりした中にも、不思議と夏らしい雰囲気というのを感じる。
夜中のピエクサマキは、
ふと、何年も前に日本の米原駅で夜を明かした時のことを彷彿とさせた。
この深閑として、灯りも乏しい田舎の街並みに共通点を見出したのだろう。
Pは空いている店を探し続けたがとうとう見つからなかった。
しかし、Pの家まで行って、何かを食べるほどの時間はなかったので、
結局はちょっとフラついた後に列車の方へ逆もどりした。
そして、何にちか後にヘルシンキで会う約束をした。
その頃は、フィンランドのピアニストの友達の叔母さんであるNの、ヘルシンキから少し北のHuopalahtiにある家に厄介になって、そこを拠点に旅をしていた日々、
どこにも行かない日には、ニナの周りの人々の日常に紛れ込んでいたが、
この日は、Nの友達の主婦と、その娘のまだ小さいJちゃんとで、テニスをしにテニスコートへ向かうことになったのだった。
用意されていたのは、なんだかプラスチック製のお遊び用のラケットに、なぜかボールだけはちゃんとした硬球だ。多分たまたまあったものをかき集めてきたんだろう。なんとも凸凹な組み合わせの4人でテクテクとテニスコートに向かった。
しかし、あっけなくも、
自分が最初のサーブを打った瞬間、
プラスチックのラケットは見事に穴が空いて壊れてしまって、ゲームセット!
せっかくほのぼのと楽しい時間を過ごそうとした途端の悲劇で、
なんとも残念ながら、
これはどうにもしょうがないこと、
みな諦めてすぐに帰途につくことになった。
「ねえ、なんでアキは髪が黒いの?」
半ばおれのせいでテニスができなかったのだが、
その後仕方なく、おれが居候しているNのうちでみなでくつろいで食事をしていると、
そんなことは全く忘れて、抜けるように明るいフィンランドの少女、Jは屈託なく話してくる。
そんな風に、特に何もない日は本当にいろいろなNの周りの人たちと馴染んで、
なんともほのぼのと過ごしていた。
フィンランド北部からヘルシンキへ戻る長距離列車の中でもあらゆる人が話しかけてきた。
ヘルシンキの精神病院で働いている少年や、
セイナヨキから来ていた快活な少女たち、
そして一人はなんと日本に住んで4年ぐらいという宣教師の女性など、
なんともフィンランドの人たちは友好的で明るい。
数日後、Pとヘルシンキ中央駅で待ち合わせていた日は、珍しくヘルシンキの駅の近くのホテルに泊まっていて、
洗っていたズボンのチャックが壊れていて治らないまま約束の時間になってしまった。
出会うと、Pは、
「うちの兄のうちに行きましょう!」と言った。
偶然にも、Pのお兄さんの家もまた、Nと同じく、
ヘルシンキから北へ3駅行ったところの、
Huopalahtiにあった!
Pの兄の家に着くと、
兄の嫁のカナダ人もいて飲み会となり、
4人でゲームをしながら、
カルアミルクやいろんな知らないカクテルを飲み続けた。
カナダ人の嫁はフィンランド在住2年だが、なかなかフィンランド語に馴染めずに、
孤独に苦しんでいるという。
しかし、Pも、Pの兄も、かなり英語が話せるので、
英語版の社会問題がベースになっているゲームでは本領を発揮した。
その間にPは壊れたズボンのチャックを直して、アイロンまでかけてくれていた。
どれぐらい飲んでいたのだろうか。
朝、気がつくと皆な雑魚寝で熟睡していて、起きる気配がない。
仕方なく、書き置きをして家を出た。
『昨日はどうもありがとう!皆熟睡しているようなので、起こさないでこのまま出ます。
今日の列車でフィンランドを去りロシアへ向かいます。
イルクーツクからでも手紙を書きますね。さようなら!』