- トップページ
- Future Jazz Japan
- Groove X
Groove X
Groove X (CPJ Compositions for Drums)
The enthusiasm of Akihiko ‘JOKER’Matsui aesthetic discretion went on to the erudite stage of Groove X compositions written exclusively for the drums.
What made it a tough challenge was, the fact that the drums basically can’t play the melodic theme. So, most of the Groove X tunes are, off course, based on rhythmic ideas like odd meters, polyrhythms, and some more complex figures like quintuplets and septuplets!
数々のCPJ的バンドを率いてきた松井秋彦のリズムの極限的コンセプトGroove Xは、松井秋彦がバークリーの頃専攻していたドラムから発想した楽曲のコンセプトです。リズム的が概念を優先する為に、CPJでは常に意識を及ばせている調性感を部分的には破綻させて無調性になる部分までを含む楽曲が含まれています。
☆Groove X (CPJ written for drums)
31.GX001.Groove X (Pitvicka Jezera, Croatia) video1 video2
32.GX002.Jive Five (Mostar, Bosnia-Herzegovina) video1 video2
33.GX003.Jive Seven (Kotor, Montenegro) video1 video2
34.GX004.Oceanfront (丹後, Japan) video1
35.GX005.Ondo Ondo (音戸, Japan)
36.GX006.Fireworks (鵜殿, Japan) video1 video2
37.GX007.Jindaiji (深大寺, Japan) video1
38.GX008.Nishiharuchka (西春近, Japan) video1 video2 video3
39.GX009.High-Energy Stuff (Bondai, NSW. Australia) video1
40.GX010.Getaway Gateway (Amsterdam, Holland)
2012. 5. 22 Released! Groove X 第一弾!
Groove X / Groove X
ドラムから発想したCPJの楽曲群! ’宇宙初’のあらゆるポリリズムの金字塔!
‘Groove X’ / Groove X CPJ-4001 ¥2,500(tax included)
Jazz Life(2012年6月号102ページ)に冨沢えいち氏によるディスクレビューが掲載されています
13/7、11/5、7/13、5/13など、4次元の時空ではあり得なかったリズムのショーケース!
トラック1〜6はインタープレイ上の即興ポリリズム、
8〜10は譜面上の厳密なポリリズムに照準を合わせ、あらゆる観点からポリリズムを極めています。
1.39.GX009. High-Energy Stuff
2.36.GX006. Fireworks
3.37.GX007. Jindaiji
4. 38.GX008.Nishiharuchka
5. 34.GX004.Oceanfront
6. 35.GX005.Ondo Ondo
7. Consistently Inconsistent
8. 33.GX003.Jive Seven
9.32.GX002. Jive Five
10. 31.GX001.Groove X (GX001)
All Compositions by Akihiko ‘JOKER’ Matsui (松井秋彦)
Akihiko ‘JOKER’ Matsui(松井秋彦)
Drums(all tracks), Bass(8~10), Guitar(8,10), Keyboards(8~10)
Mitsuo Kabuki (蕪木光生) Keyboards(1~6)
Yuya Inokuchi (猪口勇哉) Bass(1~6)
31. GX001. Groove X Plitvicka Jezera, Croatia
32.GX002. Jive Five Mostar, Bosnia Herzegovina
33.GX003. Jive Seven Kotor, Montenegro
「10ユーロになります」
34. GX004. Oceanfront 丹後, Japan
35.GX005. Ondo Ondo 音戸, Japan
36.GX006. Fireworks 鵜殿, Japan
37.GX007. Jindaiji 深大寺, Japan
38.GX008. NIshiharuchka 西春近, Japan
39.GX009.High Energy Stuff Bondi,Australia
「It’s nice to be a tourist!」(旅人であることはいいことね!)
オーストラリアとベルギーの二重国籍を持ったその女は皮肉たっぷりに言った。
当時のソ連のシベリア鉄道では、イルクーツクの街に外国籍の人々が下ろされている一泊二日の間に、
旅行者向けに、バイカル湖へのエクスカーションを企画していた。
おれはシベリアを東に、彼女はシベリアを西に向かっていて、イルクーツクで出会したのだ。
あいにくどんよりとしたその日、旅人は天気は選べない。
特に他にすることはないのでエクスカーションには一応名乗りをあげた。
中世の共産圏の都市の異様な雰囲気に満たされたイルクーツクの街から、
そのエクスカーションの小さなバスは草原のさなかを一路バイカル湖へと向かった、
かなりの間、草原に時折ロシアでよく見かけるピンクの花が点在するばかりの不毛の土地を駆け抜けると、
そこはあっけなくもバイカル湖であった。
湖面は悪天候の中深緑色に沈み込み、陰鬱な表情でもたれかかってくる。
「It’s so nice to be a tourist!」
『船は?』
「あなたは行くの?」
『おれは行くよ』
「ふーん、行ってらっしゃい」ほとんどの真面目な客がバスを出て高速船に向かって行った。イルクーツクに着いてから知り合ったその謎の女性は、このエクスカーションに乗り込んだはいいが、酷い雨が続いていて、いい加減やけくそになっていた。自分もこの視界の効かない空に嫌気がさしていて、このツアーの落ちこぼれ同士、バスの中でうだうだしていたが、せっかくのバイカル湖だ。水深世界一の、なかなか辿り着きにくい湖沼の一つだ。見えようが見えまいが、取り敢えず高速船に向かい、バスの中でふんぞり帰る彼女を後にした。
このエクスカーションのメインが、バイカル湖の湖面を走る高速船に乗って、まるで大海の一部にしか見えないこの深度世界一の湖の一挙手一投足を垣間見るというものだったが、ほんの数分間その高速船で甲板からの淀んだ風景を眺めるとすぐに、まだ走行中の船の内部の客室に戻ってドサっと座り込んでいると、さっきの女がまたやってきた。
「It’s fairly nice to be a tourist!」
『なんだ、来てたのか。』
「これ食べる?ロシアのチョコ。」
『ああ、うん』
彼女は真っ黒いロシアのチョコを割って分けてくれながら、
「これも今日の天気とおんなじ。ほろ苦いけどね~」と。
『おお、これもまさに共産圏の苦味だ!』
「この後はどこに向かうの?」
『南半球かな。オーストラリアってどうなの?』
「いいところよ。おすすめよ!」
二年後、旅人であることはそんなもんだと思っているおれは、南半球にいた。
「気がつけば、床一面にゴキブリが這っている、まさにゴキブリの海にいて、ゴキブリを踏まずにはいられない部屋にいた。」
という最悪な状況の夢を見て目が覚めた!
それもその筈、
日本で、楽器の弾き過ぎから来た腱鞘炎で演奏もままならなくなり、
当分楽器から離れる為に、オーストラリアにワーキングホリディで飛んできたが、
どの町からでもよいということで、最北端のダーウィンから入ったのはいいが、
のっけから、ダーウィンに着いた格安便にチェックインしていた荷物が届かず、
この猛暑の地ダーウィンに釘付けとなったので、
呆れてレンタカーを借りてそのレンタカーに寝泊まりしていたが、
外をかなりの数のゴキブリが歩いているにもかかわらず、
あまりの暑さに窓を開けて寝るしかなかったのだ。
『それでおれの荷物はどうなったんだい?』
ダーウィンでの滞在の二日目、
おれはブルネイエアラインの事務所で主張してみることにした。
「それがお調べしましたところ、お客様のお荷物は、ただいまシンガポールの方にありまして、、、」
『なんだって?それほいつここに送られてくるんだい?しかも、ここでの予定していない滞在費はどうしてくれるんだ?』
「はい、当社の規定としましては、最初の2日間は、補償金は支給できないのですが、、、到着から72時間過ぎた時点から、、、」
『もういいよ!こんなところにそんなに長くいたくないよ。どうにかしてくれ!』
猛暑のダーウィンをどうにか抜け出すのに2日以上かから出鼻をくじかれて始まったDown Underの放浪は、その後は快適に滑り始め、
Perthの美しい街を自転車で駆け巡り、
Ayers Rockに登り世界的な巨岩の神秘性に触れ、
ここまででオーストラリア全体を八の字に巡る旅は半周終わっていた。
しかし、Ayers RockのあるYurara Resortに着いた時、道中の大事な友であったラジカセがないことに気がついた!
これは、アデレイドからダーウィンに再度北上していたバスからこちらに来る為に、アールダンダで乗り換えた時に、バスに忘れたに違いない!
『Excuse me, I might have left my white radio player about this big on the bus heading north』
Trailwaysのカウンターで、バスに問い合わせると、すんなりと明確な答えが返ってきた!
「あなたのラジカセは今ダーウィンについています。あなたが最終的にシドニーへ向かうのでしたら、11月27日にはSydneyに着くようにいたします。そこでピックアップできるように致します」
Yubara Rosertからまた東へ向かうバスを待っている時、なにげなく、鮮やかな黄緑のTシャツを来た背の高い男が目に入った。その時点ではなぜそんなことが気になったのかはわからなかったが。
Trailwaysの快い対応を信頼して、
自分はそのままオーストラリアの内陸部を東へ向かい続けることにしたのだ。
Three Waysでまた乗り換えて、一夜を過ごしてうつらうつらしていた時だ。
急に運転手が、
「ここの街で泊まらなければなりません、Cloncurryで洪水が発生しました!」
とアナウンスを入れた!
そして、その事実を皆に知らしめる為か、
バスはちゃんと洪水に対峙するところまで進み、乗客一同はそこでバスを降りた。
見事としか言えない。
荒れ狂う大河の濁流が右から左へ轟音を立てている。呆気にとられるばかりだ。あまり車も通らないこの片田舎ながら、
大型の貨物自動車から自家用車まで十数台が連なっている。
人々は車から降りてその流れを目前にすると、呆れるばかりで、かえって落胆の気持ちはない感じだ。
何しろここはもともと川でもなんでもないのだから。
昨夜の局地的集中豪雨が洪水を起こし、
それが流れ続けて道路を横切って行くのであり、
いつになったら止まるという見込みもない。
Mt.IsaとCloncurryの間の交通を完全に遮断しているのだ。
マウントアイザからうねり来る山道がここで一番標高を下げていて、流れの深さはかなりのものである。
「Wonder why there’s nobody selling beer here!」(なんでここでビールを売る奴がいないのかが不思議だぜ!)
ある長身の男が脳天気にこんなことを言い放った。
気がつけば、Yurara Resortでなんとなく視界に入って気になっていた、
鮮やかな黄緑のTシャツを着た男だった!
「シェルに行くぜ~」
オージーイングリッシュバリバリな背の低い男が勢いよく言った!バスの乗客は、Cloncurryの手前のMt.Isaに下され、各自の自由でホテルに泊まる人は出てゆき、停車しているバスの中で寝る人だけ残ったが、残ったのはわずか八名だった。その八名は、ガソリンスタンドのシェルでコインシャワーを浴びる為にこぞって歩き始めたのだ。工場が多く、やや起伏のある殺風景な町を歩くと程なくしてシェルのガソリンスタンドについた。かなりワイルドなシャワーだったが、ないよりはマシだ。
各自五分ぐらいずつシャワーを浴び、少しスッキリしてバスに戻った。
夜には、段ボール一箱分のビールをバスに持ち込み、八人で飲んだ。知らない土地で立ち往生をくらっている雰囲気ではなく、みな明るくこの停車したバスの中での夜を楽しんだ。
夜中にトイレに行きたくなった。
トイレはバスの後部にあるので、前方の席で寝ていたおれは、暗い座席を辿りながら後部に向かって行った。
しかし、西洋人たちはほんとに好き勝手な位置で寝ているもんで、
座席から足を突き出して通路を遮りながら寝ているのが二人いて、四本の足が通路を塞いでいたが、起こす必要はない。おれは飛び越えた。
「ぎゃーっ!」
飛び越えて降りたところに何かがいる感触があった!
なんと、通路の床に寝袋で寝ていた人の顔面の上に降りたのだ!
それがなんと、なんだか気になっていた、
鮮やかな黄緑のTシャツを着た長身のイギリス人だった!
こういうことだったのか?
しかし、彼はなんともないと言い、それでもニコニコしているなんとも気のいいヤツだった。
翌朝、バスの乗客がいったんバスに戻ると、
一応洪水のポイントへと定点観察に向かった。
洪水の量にそんなに変化があるようには見えなかったが、
他の車やバスが尻込みしている中、
おれたちのバスだけが強行突破をする流れになった!
乗客全員が濁流を前にして一度バスを降り、
床下にある各自の大荷物を取り出して客席まで持ち込んだ。
かなりのところまで浸水する覚悟だ!
バスは慎重に濁流の中を進み始めた。
洪水の手前や反対側に溜まっている人々が歓声を上げている!
見事に連なっている車の行列を他所目に、
おれたちのバスは見事に無事渡理きり、
辺りは拍手と歓声の渦となった!
その後、ブリスベーンで、石畳の通りのど真ん中という奇抜なロケーションの
Jimmy’s on the Mallというレストランに入ったり、
ゴールドコーストで砂浜をひたすらジョギングしたりして、
当面の滞在予定地であるシドニ-にたどり着いたのが、ちょうど自分の誕生日だった。バスターミナルに着くなり聞いてみた。
『ラジカセをダーウィン行きのバスの中に忘れてしまって、今日あたりにこちらに届けていただけるという話になっているのですが、、、、、、』
受付の人は、少し奥に引っこんで戻ってきた。
「これですか?」
こうして、奇跡の生還を遂げてくれた大事なラジカセと、
街の楽器屋に立ち寄って、FJJの中の難曲の一つ、J&Fをピアノで弾いて、ここのところ楽器を弾いていなかった中、
まだ一応覚えていたことを確認して、おれにとって素晴らしい誕生日となった!
ボンダイビーチから丘を登った所にあるFさんの家に滞在し始めてから、
3ヶ月ぐらいは仕事もなく、ある意味全てが自由時間という優雅な日々だった。
シベリアのイルクーツクで会ったふてくされたオランダ系オーストラリア人から、ワーキングホリディを勧められ、
そのワーキングホリディのヴィザで来ていたので、楽器の弾きすぎでなった腱鞘炎を治す為に、
音楽以外のバイトを探すつもりだったが、思ったよりも仕事がなく、
しかも、あまり必死に探していなかったのもあっただろう。
その間、恵まれた環境の中、おれはボンダイビーチ付近の絶景の海岸沿いの、
「Cliff Fun Run」
というジョギングコースを毎朝走った。
毎日タイムを計り、毎日新記録を更新し、
最後には戻ってきた所の鉄棒で毎日懸垂をしてなるべく回数を増やして、最後には十四回の懸垂をするようになった。
美しい岩壁を誇るそのコース沿いには、
一日中ボーッと座っていてもいいようなスポットも点在していた。
特にボンダイビーチから左へと向かうと、複雑怪奇な浸食を遂げた崖が見られ、しかもあまりひとけがなく、時間が止まったようになる。そして、家の近くで散歩する場合は、ボンダイビーチの左の丘を登り返し、ゴルフ場をかすめて住宅地に入った。
その丘は、Dover Heightsと言う地区で、シドニーの摩天楼が一望できる!
その、摩天楼側の斜面にある家々の中の一つ、屋上がかなり広いバルコニーになっている家が目に留まった。三階建に見えるその家の屋上もしくは最上階の半分が屋根のない開放的な状態になっていて、全体的に茶色い木の色で統一されていた。
そこには更に、テーブルと椅子があり、この素晴らしい眺望を、
このテーブルでコーヒーを片手にくつろいでいる光景を思い浮かべ、
こんな理想的な位置にある家も珍しいと思った。
それからは毎日散歩でその家を通る度にその家を、そこからの眺望と共に眺めた。
しかしなぜか一度たりともそこのテーブルに人が出てきて寛いでいる光景に巡りあうことはなかった。
皮肉なことにこんな家に住んでいても、屋上で寛ぐような暇はないのだろうか。
もしくはこんなに美しい眺めでも毎日眺めていると飽きてしまうのだろうか。
色々な想いを巡らせながら、
おれは毎日その至高の眺望を鑑賞し続けた。
おそらくこの家の持ち主よりもずっと。
40.GX010.Getaway Gateway Amsterdam,Holland
『Alfa 20 to center, perimeter detex complete!』
これは、ボストンでのガードマンとしてのアルバイトの頃のちょっと暗号めいた普段のトランシーバーでの会話の例だ。
留学中に、学生ビザでは正規のバイトは出来ない中で、
ある時なぜだか思い立って、
アメリカでかなり虫歯ができて歯の治療でかなりのお金がかかったことと、
ドラムのレコーディング用の機材一式が盗難にあったことでかなりの損害があったことを、
Immigration officeに行って訴え、
『そういう訳で、アメリカに着いてからというものかなり予定外の出費があって大変なんです。学生ではあるけど労働許可をください!』
と、無謀とも言えるかもしれない主張をしたことがあり、
それがまんまと通ったことによって、普通のアメリカ人がやるようなアルバイトをできることになったのだ!
「What is this music? I love it a lot!」
『Oh, thanks! This is one of my tunes that I was rehearsing with my fellows the other day!』
「Really? Sounds cool!」
ボストンの繁華街にあるコンテンポラリーなオフィスビルのガードマンのバイトは多岐に渡ってはいたが、
その中で一番役得な感じなのがこの、ビルへ出入りする人々のチェックをするカウンター、Zone 100であった。
ここでは音楽を聴いたり、大学の宿題をやっていてもよく、
たまにビルに入る人のIDをチェックするのだが、
こんな風におれが流していた曲を楽しんでくれる人もいたのが嬉しいことだった。
なんせ流していたのは相当にマニアックなコンテンポラリージャズだったのだ。
常にビル全体の警備で一回のシフトには必ず四人のガードマンが稼動していないとならない。
一人は必ず本部に、もう一人はzone 100に、それ以外の二人はビル内外のパトロールに出るか、
あるいはビルの内部のどこかのポイントを必要に応じて警備していて、
それぞれトランシーバーを持っていて随時連絡をとりながらの警備であった。
そしていろんな暗号があり、なるべく基本的な内容は暗号で言うようになっていた。
「Alfa 20 to Alfa 40, the stuff you left here sounds cool! (君がここに置いていってくれたテープの音楽は最高だね!)
『Alfa 40 to center, Glad you liked it!』(気に入ってくれて嬉しいよ!)
「I’ve seen the ads for your upcoming concert in the newspaper! I will go check you out!」(君のコンサートの宣伝が新聞に載ってたぜ!そん時は見に行くぜ!)
「Center to Alfa 20 and Alfa 40, no private conversation on the transceiver!」(本部より、個人的な会話は慎め!)
ガードマンの仲間の中で一番ジャズの好きな親しい同僚がうっかりこう言う友達の会話をするとこんな風に釘を刺される。
アメリカ人の同僚以外には、レバノン人やモロッコ系フランス人など、国籍も多岐に渡って国際色豊かだった。
かなり打ち解けて、よくお菓子を持ってきては置いていってくれるレバノン人のMはちょっと足を悪くしている女性で、
それがレバノンでの治安の悪さと関連性があるのかは聞くに聞けないままだが、すごく明るい性格なので、
ある時、パトロール中に、
『Alfa 30 to center, basement detex complete!』(地下のパトロールが終わりました)
と、たまたま本部にいたMにトランシーバーで報告し、
Mが本部で開錠する操作を行なって駐車場に出るドアがビ~っというけたたましい音を立てるのに合わせて
トランシーバーをかざして、
『ビビビビ~~~~』
という音をMに聞かせた。Mは、
「楽しみを分けてくれてありがとう」
と返してきた。
それから程なくして、初々しい新人が現れた。
モロッコ系フランス人のMBだ。
ほとんど子供みたいな華奢な女の子で、こんな子でもガードマンが務まるのか?
初めて先輩となったおれが教える立場になった。
最初のIFC(ビルのオフィス内部のパトロール)はおれが先導して二人でやることになったので、
オフィスワーカーに、
「おおっ?最近はカップルで警備することになったのか?」
と笑われたもんだ。
だいぶ打ち解けて、
MBはそのうちモロッコ料理をご馳走するよと言ってくれた頃に、
おれはもうヨーロッパに向かう頃になってしまってそれっきり会うことはなかった。
そんなこんなで、おれは、ボストンでのバークリー留学時代は、
奨学金と日本からの仕送りで、学費と生活費は基本的に賄えていたにも関わらずアルバイトをして、
毎年の長い夏休みにヨーロッパを放浪するのを常としていた。
そして、自分にとっての毎年のヨーロッパの入り口がオランダのアムステルダムだった。
マーティネアーというオランダの航空会社が破格の航空券を出していたので、
ボストンからヨーロッパの往復が異常なまでの安さだったらだ。
行けさえすれば、他の条件はどうでもよかったのだから。
「マリファナとか、コケインは吸うか?」
ヨーロッパの入り口としておれにとっては縁起の良い、幸先の良い土地であるアムステルダムのもう一つの顔が、
ここにあった。これはアムステルダムのダムという広場で、沢山の楽器などの荷物とともに、五時間ぐらいを持て余していた時のことだった。おれはぶっきらぼうに答えた。
『全然』
「何も吸わないのか?」
『全然』
「そうか、、、、、、。」
どうやらこいつは麻薬のディーラーで、ビールを片手にウロウロしている。
「飲むか?」
『いいよっ!』
「ちょっとそのウオークマン見せてくれよ」
見せてやると、
「これかなりいいウオークマンだな。売ってくれないか?」
『なんで?』
「欲しいんだ。アムステルダムでは売ってない。250ギルダーでどうだ?」
『250ギルダーって言っても、いくらぐらいなんだかよくわからないよ』
「125ドルぐらいだ」
『ちょっと無理だな』
「いくらするんだそれ」
『N.Y.で200ドルだ』
「275ギルダーでどうだ?もうそれ一年ぐらい使ったんだろ?」
『いや、そもそも別に売りたくないし』
「う~ん、じゃ、300ギルダー!150ドルだ!」
『う~ん、だめだ』
その後、5分ぐらい経って、
「わかった!200ドル出すよ!ドルで!」
『うん。200ドルなら売ってやるよ。現金で持ってくればな』
そんなこと言いながらかなり長いこと言い合っていた。そして、銀行に行って、為替レートを聞いたり色々と揉めていた。
もうおれが乗るイギリス行きのバスがやってきていて、結局おれが乗り込むまで商談成立はしなかった。
おれはそれで構わないが、彼の目的はそこではなかった。
バスに乗り込んでだいぶ経ってから気がついた。
おれの鞄からおれのカメラが消えていた!
そんな一面もある街ではあるが、
アムステルダム、そして、マーティネアーは快活で明るい。
一度なんかは、飛行機に乗り遅れた時も、代わりの飛行機に乗れるように手配してくれた。格安のチケットにも関わらず!
いつも、おれにとっては、ヨーロッパの玄関であり、
入り口であり、出口である。
いい意味でも、悪い意味でも、エネルギーに満ちた玄関だ!